向かう…
通り過ぎる木々を懐中電灯で照らす。
……威圧感のある黒い影に気付く。
『…いた、いた、いた、いた!』
完璧な独り言だったが、直ちに近付き、黒い物体を確認する。
【雄のカブトムシ】を発見。
…鳥肌が半端で無かった。
しばらく、はしゃぎ過ぎて 2メートル程の草地の斜面を踏ん張りながらも滑り落ちる… 堪らず途中でジャンプしたが更に痛い。
『…痛い痛い痛い痛い…』
半月盤の無い膝を庇いながら…【ごりごり】と、そんな音を体内に感じつつも、苦悶の声を絞り出す。
既に焦りながらの瞬時の動作に耐えられる関節で無いだけに…
痛いが…ニヤけながらも、幸せ感の方が勝っていた。
今年初の立派な【雄のカブトムシ】だった。
気温が上がり、地中から出てきたばかりの様子を感じる…成虫に成り立ての弱々しい足取り。
あと1、2週間もすると更に元気になるはずだ。
誰もいない深夜がたまらないな。
まだ真夏の空気には敵わないが、深夜の森林は良い匂いだ。
ボトボト落ちてくる…戻るとまた…落ちている…そんな時期が間近に迫る。
…しかし本当に威圧感あるなぁ…自然界の真夜中のカブトムシ。
【今世での幸せの一つ】



